酔眼読書漂流記

読んだ本の紹介と感想などを、酒を片手にゴソゴソと綴っております

約束の森/沢木冬吾

あらすじ

元警視庁公安部の奥野侑也は、妻を何者かに殺害され、今はその喪失感を抱えたまま人知れず孤独に暮らしていた。そんな折り、かつての上司から仕事の話が持ち込まれる。東京から600キロほど北にある「モーターモウテル・光芒」の従業員として働かないかというものだった。表向きはふつうのホテルだが、裏に回れば公安をはじめとした、多数の機関の極秘任務の為に使われる施設でもあった。そこである作戦が開始される。侑也にはそれをサポートして欲しいという依頼だった。訪れた先で待っていたのは、何か訳ありの若い男女二人と、傷ついた一匹のドーベルマン。そして、彼らが囮となった作戦が始まる。

感想

読み始めたら止められなくて、一気に読み終えてしまいました。この物語の一方の主人公はドーベルマンのマクナイト。元々は警察犬のなるため訓練を受けてきた犬でしたが、採用には至らず一般人の里親に引き取られたのでした。その後、彼は捨てられ虐待に合い、今はモウテル光芒で捨てられたような存在でした。公安時代の侑也は警備犬の担当であり、この仕事を引き受けるきっかけとなったのが、マクナイトの存在です。

侑也とマクナイトの交流が物語の縦糸でしょうか。傷ついたマクナイトを引き取る裕也ですが、人を信じることができなくなっていた彼はなかなか心を開きません。妻を失った喪失感を埋めるかのようにマクナイトに尽くす侑也。少しずつ信頼関係を築いて行く二人の姿は、ある意味想像通りの展開なんですが、それだけに安心して泣けてきちゃうわけなんですよ。

もうひとつの糸となるのが、ふみと隼人。それぞれが重い過去を背負っています。作戦のため、侑也と親子を偽ることになるふたり。戸惑い反発し合う三人なんですが、こちらも少しずつ打ち解け合って行く過程が泣けてくる。この辺りもベタ過ぎてどうなの?とは思うんですが、ツボなのは間違いない。それぞれが家族を失い、心に傷を負っている。疑似家族が、やがて本物のようになっていく、家族再生の物語といってもいいですね。そんなヒューマンドラマが展開されていきます、前半は。

クライマックスは、一転して「今度は戦争だ!」というぐらいのド派手なアクションの連続。派手過ぎて、あまりにも荒唐無稽に感じる危惧もなきにしもあらず。でも、ここに至までの登場人物たちの心理や係わり合いの変化を見ているので、彼らの行動に、読み手も俄然盛り上がります。すっかり感情移入できちゃってますから。まぁ、みんなのカッコいいこと。

だいたい、こうなるだろうなという展開で進んでいくので、そこが面白いと思えるかどうか分かれ道。逆に言えば、キッチリと裏表なしの王道で楽しみたいっていう向きには最高の一冊ではないでしょうか。

余談ですが「マクナイト」という名前は、映画の「ブラックホークダウン」の登場人物の名前から付けられたようです。トム・サイズモア演じる中佐ですね。だからでしょうか、ラストにあんなものが登場してくるのは。うーん、さすがにそれはやり過ぎのような。

約束の森

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