酔眼読書漂流記

読んだ本の紹介と感想などを、酒を片手にゴソゴソと綴っております

菩提樹荘の殺人/有栖川有栖

「若さ」をモチーフにした4つの短編。

アポロンのナイフ

東京で通り魔殺人が発生。犯人は高校生なのだが、警察の手を逃れ行方不明に。そんな折、大阪でも高校生の男女ふたりが殺害される事件が。通り魔殺人との関連は?

少年犯罪を扱った一編。そして、被害者と被害者の人権といったものも考えさせられます。私も常々、被害者なり加害者の情報はどこまで公表すればいいのかと考えることがあります。

途中アリスが被害者の氏名写真を公開する意味はあるのかという問いを発します。それに対する火村の答えは、思い至らないものでした。曰く、もし警察が逮捕に際して何も公表しなかったらどうなるか。それこそ人権問題であろう、と。昨今の冤罪事件を考えると、透明性を保持するためには、どこの誰を逮捕したかを公表する意味はあるのですね。それでも、難しい問題ですが。

そんな思いが犯人の動機に重なって、ほろ苦い結末を迎えます。果たして正しいことなのかどうか。

雛人形を笑え

注目の若手漫才師「雛人形」のひとりが殺害されるという事件。背景がお笑い界からか、その解決は笑劇的です。バカミスと言っていいかも。おまけに、最後にオチまでついて。そうは言っても内容は切ない。いつか売れると信じている若者たちの夢と挫折。作家アリスシリーズは、「日常の謎」ならぬ「日常の殺人」を扱っていますが、それだけに背景や動機といったものが切実に感じられます。

探偵、青の時代

街で偶然出会ったアリスの大学時代の知人が語る火村のその当時のエピソード。友人たちとの飲み会に参加した火村は、ふとしたことから彼らの隠し事を見抜く。

若かりし頃の火村が語られるお話です。うーん、何となく江神さんにダブって見えてしまうのは気のせいか。彼が解決する「事件」そのものは大したことがないんですが、知られざる一面が覘けたようで面白い。渋々参加したものの、嫌々ではなさそうな火村。その能力故に彼らを「裏切る」ことになり、孤独を受け入れなければならない火村の心中はいかほどか。そんな火村に思いを馳せる、アリスの最後の一言が微笑ましいです。

菩提樹荘の殺人

アンチエイジングで女性に人気のカウンセラーが殺害された。自身の別荘の池の畔、その姿はなぜかトランクスひとつだけという姿だった。

この中では一番地味な印象。でも、ミステリとしては一番の出来でしょうか。さりげなく語られていますが、被害者が裸だった理由は秀逸。火村が示す、容疑者の中で唯一犯人であり得るポイントも、いわれてみれば納得。

まとめ

実は、あとがきが面白かったりします。火村・アリスが34歳を境に歳を取らないまま現代に生きていることについて、著者が思うこと。こちらとしてはあまり深く考えてことはなかったんですが、功罪あるんですね。ただ、永遠であることがヒーローであることの証でもあるでしょう。何時までもその「瞬間」にいる彼らを見るのが、安心なんでしょうね。

菩提樹荘の殺人

菩提樹荘の殺人