酔眼読書漂流記

読んだ本の紹介と感想などを、酒を片手にゴソゴソと綴っております

深夜プラス1/ギャビン・ライアル

第二次大戦中は、イギリスの情報部に属し、フランスのレジスタンスと共に戦っていた”カントン”ことルイス・ケイン。現在はビジネス・エイジェント註1として活動している。彼の新しい仕事の依頼はひとりの男を、ブルターニュからリヒテンシュタインまで送り届ける事だった。簡単な仕事に思えたが、フランス警察がその男・マガンハルトを追っており、さらに男の命を狙う存在がいるという。相棒となるガンマン、ハーヴェイ・ロヴェルともにケインはシトロエンDSを駆ってリヒテンシュタインをめざす。

ギャビン・ライアルの代表作であり、冒険小説の代表作でもある。確かに読んで飽きさせない。主人公がいかにかっこいいかが決め手になるんだが、この場合脇役のハーヴェイ・ロヴェルがいい。ガンマンとしての腕を見込まれボディーガードとして雇われる彼。しかし、彼は人を殺す罪悪感から酒に溺れるアル中なのだ。物語のヒーローは、強い。そこに憧れるんだが、決して完全無欠じゃない。何かしらの弱さがある。そこにまた惚れちまうのだ。この物語は、彼の葛藤との戦いの物語でもある。故にその結末は悲しい。彼に未来はあるのか。思わず無事生き延びて欲しいと思ってしまう。余談ではあるが、ハーヴェイの第一印象は次元大介。映像化するならスティーブ・マックイーンで、ってそりゃ無理だけど。

ルイス・ケインもそう。弱さがある。自分のしていることは金のためじゃない、「正義のため」だと思い込みたいセンチメンタリズム。クライマックスの銃撃シーンでの彼の心の葛藤を読んでいると、とても愛着を感じる。恐怖に打ち勝つために色々と言い訳しているように思えて、安心出来るんだよなぁ。オレと変わらないじゃないかってさ。でも、やっていることは全然敵わない、やはりヒーローなのである。

こんな素敵な男たちの活躍を読めばグッと来るよな。ただ古典的名作というのはよくもあり悪くもあり。今読むと「普通」過ぎるということはあるかも。でも、これがあるから今があるとも言えるわけでね。

王城の護衛者/司馬遼太郎

純情一途な男の生きざまー

先日、NHK大河ドラマの「花神」総集編を見てから、司馬熱が上がる。前から気になっていた「鬼謀の人」と「英雄児」が収録されている本書を読むことに。それぞれ大河ドラマの原作「花神」と「峠」の元になった短編小説。

ダイジェスト版、と言ってしまえば身も蓋もないが、「花神」「峠」を読んでいれば十分というのも確か。しかし、今手元にその二つがないので、久しぶりに蔵六と継之助に会えたようで嬉しい。

表題作の「王城の護衛者」は会津藩主松平容保の話である。幕末、治安回復のため京都の守護職に命じられたことで、歴史に一方の主役として脚光を浴びることになる。それは朝敵逆賊の敵役として。容保自身その運命を予見していたのだが、「一藩の賭してでも将軍家のために危機におもむくべし」という家訓のため、やむなく守護職を受けたのだった。

司馬遼太郎は容保を「純情」と表現している。薩長が暗躍しているこの京都において、彼は政治的な駆け引きを一切せず己の誠を示せば事は解決するはずだと信ずる註1。そして、帝に対する敬愛の情もそうであろう。それは少年の持つ「純情」である。時代は過酷である。やがて容保と会津藩はその純情さ故か、時勢から取り残され滅亡の道へと進む。しかし、危なっかしさの中に見せるその一途な思いが、容保の魅力となって読むこちらも知らず彼を愛さずにいられなくなる。

他に「加茂の水」と「人斬り以蔵」を収録。

こころ/夏目漱石

高校の授業ではいわばサビの部分だけで、全体を読むのはこれが初めてか。知っていた範囲だと色恋沙汰の事件、という側面だけど、もっと深い部分がある。クライマックスに至るまでの伏線。先生とはどんな人物なのか。人を信じることと裏切ること。そして、明治の精神。それを象徴するのが天皇の崩御と乃木希典の殉職か。

今の時代にも通じる普遍的な物がある。だからこそ今でも読まれるのか。確かに面白い。と言うとちょっとニュアンスが違うが。