酔眼読書漂流記

読んだ本の紹介と感想などを、酒を片手にゴソゴソと綴っております

幽霊人命救助隊/高野和明

読みながら大興奮、大満足。天国に行くために100人の命を助けなければならない幽霊4人の救助隊の活躍はスリリングでいて時にユーモラス、そして涙を誘う。タイムリミットの49日は彼等のとってもあっという間だろうけど、こっちにとってもあっという間の一気読み。

幽霊である彼等はこの世のものと関わることが出来ない。直接手を出して救えないのだ。そんな彼等はどうやって自殺志願者を救うのか? なんとメガホン(!)を使って声の限りに「死ぬな!」と説得するのだ。

一見ばかばかしいようでいて、でも助けるってのはそういうことなのかもしれないと妙に納得。で、妙にリアル。助けたいの必死の想いで相手の心に訴えかけていく。ただひたすら説得し励まし応援する姿は、想像するとなんだか微笑ましくて幸せな気分になるのだ。なんといってもメガホン、だからね。

でも案外、現実でも誰かの霊に助けてもらってるんじゃないかと思ったり。虫の知らせだとか、第六感だとか。それはさておき、幽霊だから何でも出来るってことにしていないところがいいなぁ。

あえて文句を言うとすれば、助けるということはそんなに簡単なことでもないだろうと思うのと、どうも一時的にしか助けたと言えないケースがあるということ。ちょっとその辺はお気楽かな、と思うけれどなんといっても一番救われるのは読んでいるこっちなのだから、それでいいのだ。そう、確実に読了後は充分幸せな気分に浸れましたよ。

生ける屍の死/山口雅也

たとえ死者が甦るなんてヘンテコなシチュエーションでも、これは間違いなく本格パワー全開のミステリだ。密室トリックや毒殺トリックといった本格ミステリとしてのガジェットをこれでもかと詰め込んだ贅沢な一作。

殺しても死者が蘇ってしまうという状況下で犯す殺人にはどんな意味があるのか? 実はその事自体が大いなる伏線でもありトリックでもあるわけなのだ。自らも“生ける屍”と化したグリンがたどり着いた事件の真相は身震いするほど素晴らしい。もう黙って、著者の仕掛けた罠にはまっちまおう。判ってしまえばなんだそんなことだったのか、と思えるのだが、“生者”である私は見事に騙されました。ひとひねりもふたひねりもした真相に、私は思わず納得。舞台がアメリカだってのもミソだなぁ。

山口雅也は独特の癖があるように思えるのだが、大丈夫これは読んで間違いなしだと思うぞ。

ただ、日本と欧米での死についての考え方の違いか、死体に防腐処理をして葬儀に来た人々に陳列して見せるってのは、どうもグロテスクに思えるんですけどね。

だれもがポオを愛していた/平石貴樹

元々は集英社から1985年に刊行されたもの。文庫本の有栖川有栖氏の解説に「新本格前夜」とあるように、時代の狭間に登場した作品。また、著者の平石貴樹氏も寡作なので知名度もそれほどではないのでしょうか。

しかし、最初に言っておきたいのは本格ミステリを愛する人で、未読でしたら是非読んで頂きたいということ。絶対読んで損はないと思います。この傑作を知らないのは勿体ない、とまで言ってしまいましょう。蛇足ながら、読んでいて一番近い感覚は横溝正史の世界、でしょうか。それもアメリカンな横溝正史といったところ。おどろおどろしさはあまり感じられず明るいのです。陰惨な殺人事件が、明るい雰囲気なのは著者のユーモアの故でしょう。警官のコンビがロンとヤースだなんて!といっても今では何のことだか判らないかな?

エドガー・アラン・ポオの終焉の地であるボルティモア郊外で、日系人アシヤ兄弟が住む屋敷が何者かに爆破されるところから物語は始ります。そして、事前には犯行を予告する電話が。

「諸君はアッシャー家の崩壊を見いだすだろう」

『アッシャー家の崩壊』とはポオの小説。まさに小説のクライマックスのように崩壊した屋敷とともに死んだアシヤ兄弟。事件はそれだけにとどまらず、『ベニレス』『黒猫』をモティーフとしたと思われる死体が発見され連続殺人の様を呈していきます。他のもポオの小説が重要な意味を持ち、全編ポオを巡るお話といってもいいぐらいです。

この事件に立ち向かうのは、たまたま日本から当地に遊びに訪れていた更科丹希ことニッキ。担当刑事のナゲットの知り合いと言うことで捜査に協力します。こういった設定で、時に雰囲気をぶち壊しにするキャラクターに遭うことがありますが、控えめながら存在感のある彼女は実にチャーミングな女の子です。部外者の彼女を警察がいきなり何事も無く受け入れてしまうのも、その魅力によるところでしょう。もっとも、その辺はちょっと出来過ぎな気もしますが。

ミステリとしての面白さは、最後にニッキによって明かされる真相の、そしてロジックの美しさ。彼女は、複雑に絡み合った謎に実に合理的な解答を示してくれます。ほんの少し見方を変えただけで今まで見えていたものがひっくり返される快感。

何故犯人はわざわざ面倒な見立て殺人などをしなければならなかったのか。中でも、屋敷を爆破した犯人の意図には唸らされました。首尾一貫して少しも隙の無いそのロジックは実に素晴らしい。ただただ納得するばかりです。

事前にポオの作品を読んでいなければ駄目なわけではないですが、読んでいた方がさらに楽しめるのも確か。特に『アッシャー家の崩壊』は、事件の解決に大いに役立ちます。そして、エピローグの「『アッシャー家の崩壊』を犯罪小説として読む—更級ニッキのために」と言う短文を愉しむためにも。

私も『黒猫』しか読んでいないですね。『モルグ街の殺人』は、あまりにも有名すぎて、読まずにいてもほぼ内容を知っている始末。なので、なかなか読むきっかけが無いですしね。