酔眼読書漂流記

読んだ本の紹介と感想などを、酒を片手にゴソゴソと綴っております

高原のフーダニット/有栖川有栖

オノコロ島ラプソディ

冒頭で、叙述トリックに関する件があり、当然本編も叙述トリックでくるんだろうな、と思うわけです。しかしながら、ネタバレしてその上でトリックを仕掛けるというのは、相当難しいこと。それをやってみせたのはお見事。と言いたいところだが、かならずしも成功しているとは言い難い。うーむ、反則すれすれじゃないの。その点はおいておいても、事件の謎の興味を逸らさずに読ませる手腕はさすがで上手い。

ミステリ夢十夜

アリスが見た夢が語られるショートショート。ミステリっぽいものもあるが、ミステリじゃない。夢と言うこともあるのか、へんてこな話で明確なオチがないものもある。それでも妙に面白い。とらえどころのない感じが、想像をかき立てられるというか。この中でお気に入りは第八夜。殺人現場で、早々に犯人がわかる火村。これで事件は解決かと思われるが、思いもよらない出来事が起こって…。最後の一文に大笑いした。アリスが殺人事件の容疑者になる第四夜の、自虐的な結末も笑っちゃいけないが笑える。いや、ちょっと切ないか。

高原のラプソディー

これはちょちと期待はずれ。帯には「徹底したロジックで犯人に迫る」とあるが、犯人特定の決め手にひねりがないくて、面白みに欠ける。あくまでも蓋然性があるだけ。必然性が低い。どうも単調な一編。

それでも、読んで楽しいのは確か。どうも世間じゃこのシリーズはミステリよりも、日村アリスコンビ目当てで読んでると言った風もあるようだが、それも頷ける。何を隠そう私も二人の活躍が楽しみで読んでるところがある。が、もっと濃いミステリを読みたいと思うわけでもありますよ。

ABC殺人事件/アガサ・クリスティ

ポアロの元へ送られる犯罪を仄めかすの手紙が届きます。そして、その予告通り繰り返される兇行。被害者に共通点を見出すことが出来ず、不明な犯人の動機。ひとつ解っているのは、Aの頭文字の地名で、Aの頭文字の人間が殺され、B、Cと続いていくこと。死体のそばにはABC鉄道案内が残されていること。

クリスティの代表作であり、ミッシング・リンクものの代表作ですね。無差別殺人に見える、全く不明な犯人の目的は何かってのがポイント。容疑者が不明なのはもちろんのこと、誰が殺されるかも不明なのですから挑戦状を送られたポアロも今回は手こずります。

その後に続く他の作家によるもっと刺激的なバリエーションを知ってしまった今読んでみると、流石にその真相にビックリってことはないです。その辺りは「古典」の宿命でしょうか。途中挟まれる三人称の部分も、いかにも怪しい、騙されちゃいけないって感じですしね。

それでも、些細な事実をすくい採って真実を浮かび上がらせるポアロの解決シーンは堂に入ったもの。さすがクリスティ女史、安心して読んでいられます。特に何故犯人はポアロに挑戦状を送りつけたのか。名探偵に挑戦状を送りつけるなんて、それだけで納得してしい気にもしませんでした。実はそこが事件の重要なポイントでもあります。ポアロが明かす犯人の真の意図とは。

読み終えて法月綸太郎氏の解説みるとまた別の感想も。それを知って見方が、ちょっと大袈裟に言いますと180度回れ右。真の主役は誰なのか。そうしてみるとタイトルはダブル・ミーニングなのかな。ミステリとしての面白さはもちろんですけど、物語性の豊かさがクリスティの魅力でもあると思います。

月光ゲーム/有栖川有栖

閉じた空間での連続殺人事件。登場人物の中に必ず犯人はいる。手掛りはすべて読者の前に提示されている。そして、読者への挑戦状。もうこれでもかってぐらいのコテコテの本格物なのだ。でも、それだけではない。物語自体もとても素敵な(と言うとちょっと語弊がありますが)お話だと思のだ。

とにもかくにも謎の解明がとても美しい。有栖川作品は、特に”英都大学”物はこのロジックの美しさが信条だと思う。張り巡らされた伏線が一点に収束していく様は、まさに快感なのだ。著者のフェアな精神には頭の下がるばかりだ。

目の前にこれでもかってぐらい手掛かりを残してくれているのに、ちっとも気づかない、気づかせない。マッチが血で汚れていないって手掛かりから展開する推理は何度読んでも圧巻。泣く子も黙る推理の美しさ。推理小説とは、本来こうあるべきだとここで断言してしまおう。最初に読んだ時から、もう一生ついていきますと思ったほどだもの。

もっとも今あらためて読んでみると、ちょいと強引かなって部分もあるようなないような。

しかし、そんなことは問題ではないぞ。もう、純粋に謎解き物語を読みたい人には絶対のオススメなのだ。正真正銘の本格推理がここにある。とは思うものの、結構この手のお話って読み手を選ぶのかもなぁ、とも思うんだけどね。